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4thアルバム『Love Deluxe』オフィシャルインタビュー公開!

2024.09.02

4thアルバム『Love Deluxe』オフィシャルインタビュー公開しました!




シンガーソングライター優河が、前作から約2年半ぶりとなるアルバム『Love Deluxe』をリリースした。これまでの作品でじっくりと取り組んできたフォークロック調のサウンドから一転、クラブ~ダンスミュージックやヒップホップ的なビートセンスへと接近した本作は、彼女のキャリアの中でも大きなターニングポイントとなるであろう野心作となっている。本人曰く「根暗も踊れるダンスアルバム」である今作は、どのように制作され、どんな想いを歌っているのか。プロデュースを務めた岡田拓郎および魔法バンドとの共同作業と、テーマである「自分を愛すること」について、話を訊いた。

――これまでの作品に比べて大幅にダンスミュージック的な要素が強まったと思うんですが、どういった経緯を経てそうした内容にシフトしようと思ったんでしょうか?

優河:今まではそういう曲をあまりやってこなかったんですが、ほぼ唯一、2018年のアルバム『魔法』に入っている「夜になる」っていう曲がビートの効いているダンサブルな感じで、意外にも評判が良かったんです。新作を作るにあたって岡田くんはじめバンドのメンバーたちと「次はこういう要素を軸にしていくのもありだね 」という話になったんです。

――これまでの優河さんの作品からすると、驚くほどの変化に感じます。

優河:そうですよね(笑)。今までの私の曲は静かめのイメージのものが多かったと思うんですが、普段の私自身をそういうイメージに重ね合わせられてしまうことも割とあって。「優河さんって、謎めいていてクールですよね」みたいに……。実際は全然そんな人間じゃないんですけどね(笑)。もちろん静謐な音の世界観は大好きだし、自分としてもそれを得意としているという意識もあったんですが、もう少し普段の自分の感覚に近い作品を作ってみるのも面白いかなという気持ちになったんです。それにはやっぱり、長年一緒にやっている魔法バンド(岡田拓郎.G/千葉広樹.B/谷口雄.Key/神谷洵平.Dr)の存在が本当に大きくて。

――作曲のプロセスもこれまでとは少し違っていたんでしょうか?

優河:そうですね。二ヶ月くらい家にこもって初めて打ち込みをしてみたり、新しい曲を作っていたんですけど、本当になんにも形にならなくて困ってしまって。岡田くんに聴かせてみても、「うーん、こっちの方向じゃないかもね」と言われたり(笑)。「Donʼt Remember Me」とかも、最初のデモではどうにも重たい印象だったんですけど、岡田くんに相談したら、しばらくしてアフロビートのアレンジになって返ってきて、驚きましたね。

――今回、岡田さんはプロデュースに限らず作曲にもガンガン関わっているんですね。

優河:そうなんです。二人の共作もあるし、「Tokyo Breathing」に関してはオケだけじゃなくてメロディも作ってもらっています。

――一方で、例えば「遠い朝」や「Petillant」、「Sunset」等では、Jディラやマッドリブを彷彿させるようなヒップホップ的なビート感もあったり。

優河:その辺りも岡田くんのアイデアです。私自身はその辺りの音楽については上澄みレベルでしか知らなかったんですが、意外なほどに違和感なく作れたし、歌えましたね。

――だからこそ、これまでの方向性を受け継いだ「Mother」のようなフォークロック的な曲の清涼感が際立っているようにも思います。ジョージ・ハリスン的なスライドギターも素晴らしくて。

優河:「Mother」は、トラックを含めて私が唯一自分主導でアレンジした曲なんです。シンセサイザーのフレーズも仮のつもりだったんですが、そのまま採用されました(笑)。

――ルーツロック色ということでいうと、「香り」のアレンジも面白いですね。トワンギーなロックンロールギターみたいな……リズムパターンも不思議です。

優河:これもツアーのタイミングでできていた曲なんですけど、アレンジが上がってきたのが、ちょうど私が(クエンティン・)タランティーノの映画を立て続けに観ていた時期だったので、即座に「タランティーノ映画の音楽みたい!最高!」って(笑)。




――『Love Deluxe』というタイトルを含めた言葉の面についても伺わせてください。プレス資料の中で優河さん本人が各曲の解説をしていますが、それを読むと、「自分を愛すること」がアルバム全体に通底する主題なのかなと感じました。なぜそういった主題に取り組もうと思ったんでしょうか?

優河:まず前提として、子供の頃から自分を愛する方法が分からなくて色々と思い悩んできたっていう経緯があるんです。自信を持って物事を続けることもできないし、自分が何を得意としているのかも分からなくて……。それにはやっぱり家庭の環境も大きく関係していると思っていて。表現者に囲まれているからこそ、「じゃあこの私という存在はいったいなんなんだろう」と余計に考え込んでしまっていたんです。

――音楽に出会ったことでその思いが解消されたということはなかったんですか?

優河:自分で歌ってみようと思ったのも留学していた頃なので随分遅かったし、人から勧められているうちに気付いたら曲を作るようになっていった感じなので、「私は音楽で生きていくんだ!」みたいな自我もあまりなかったんです。それこそ、魔法バンドのみんなみたいに音楽への強烈な思い入れみたいなものが自分には足りていないんじゃないか、と思ったりもしましたし。

――けれど、色々な活動を経る中で徐々に「自分を愛する」ことへ導かれていった、と?

優河: 30歳を超えて、何も嘘をつかず地道な遠回りをして生きてきたこと自体が私にとって一番誇れることだよなあと思えるようになってきて。自分を褒めてあげられる気持ちがやっと芽生えてきたんだと思います。それまでは、周りの人や他人のケアを優先して、そこに自分の存在意義を見出してきた部分もあるんですけど、ふと、「自分に自信のない気持ちのままで作る音楽って、どれくらい多くの人に響くんだろう」と疑問に思うようになってきたんです。

――すごく大きな気持ちの転換ですね。

優河:そうなんです。もしかすると、自分を蔑んで傷つかないようにしていたつもりで、実は自分で自分を傷つけていたのかもしれない、とも思うようになって……。人を愛するにしても、自分への愛が燃料切れしていたら、やっぱりうまく行かないんですよね。なんていうんだろう……愛を自家発電しておかなくちゃ、と思えるようになったんです。

――『Love Deluxe』というタイトルにはそういう含蓄があったわけですね。

優河:一つひとつの曲を改めて見ていくと、自分に対しての愛もそうだし、誰かに対しても、この世界に対しても、色々な愛がアルバムの中に混じり合っている感じがしたんですよね。同時に、中心にいるのは自分自身で、やっぱり自分への愛が根底にあるべきだと思うし、他者への愛とことさらに別けて考えなくてもいいんじゃないかな、と。

――日々生きていると、様々な愛の形が日常の中で不可視化されてしまっているような感覚になることも多いんですよね。このアルバムは、それを透かし見せてくれている気がします。

優河:私達が日々生きている中で、劇的な形で愛がむき出しになってあらわれる瞬間ってそんなに多くないと思うんです。けれど、ふっと救われた思いになる瞬間は確実にあって、そこにはやっぱりなにがしかの形で愛が存在していると思うんです。色々なところに確実に愛はあると思うんですよ。

text:柴崎祐二



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